ふるさと物語 74 『片寄のお菊』昔話と伝説(5)

「ふるさと物語」【74】〈昭和45年7月10日発行「広報しわ」(第180)〉

「広報しわ」に掲載された記事を原文のまま転載する形式により、紫波町の歴史や人物について読み物風に紹介しています。
(第1回昭和37年3月号から第201回昭和56年4月5日号まで掲載)
そのため、現在においては不適切とされる表現や歴史認識がある場合がありますのでご了承願います。

『片寄のお菊』昔話と伝説(5)

むかし、片寄に十兵衛という乱暴なマタギがありました。
ある時、十兵衛は、村の人々がとめたにもかかわらず、五郎沼の主といわれる大蛇を射ち殺しました。
それから数年の後、十兵衛夫婦の間に美しい女の子が生まれました。二人は大変喜んで、お菊と名づけてかわいがりました。
お菊が二十一になった年の秋、名主からぜひ息子の嫁にと頼まれたので、十兵衛はこのことをお菊に話しました。お菊はうつむいてきいていましたが、「雨をふらせていくべか。風をふかせていくべか」となぞのようなことばをつぶやくと、きっと眉をあげて十兵衛をみつめました。その目はしだいにつりあがり、人を呪うようなあやしい光に輝きました。十兵衛はぞっとしてよくみると、その目つきは二十数年前、五郎沼の主の大蛇を殺したとき絶命のまぎわに十兵衛をみつめたあの呪いの目だったではありませんか。
お菊は、十兵衛をにらみつけながらつぶやきました。「私はお前になぶり殺された五郎沼の主じゃ、このうらみはいつかむくいてやろうと思って、お前のおかた(妻)の腹をかりて人間に生まれてきたのじゃ」
十兵衛の体は、しばられたようになって身動きもできません。「ところが、それとは知らぬお前は私を本当の娘と思ってかわいがってくれた。お前にもそのような情心があろうとは、私も知らなかった…」とお菊の大蛇はにわかにはらはらとなみだをこぼしました。「今となってはもうお前にうらみはない。だが、正体をあかしたからには、親子の縁もこれかぎりじゃ。私はこれから南のホロハ山の谷に身をかくそうと思う」
こういいすてると、お菊はにわかに立ちあがり、風のような早さで家を出、烈しいうずを巻きながら滝名川の方に走り去りました。
−−−佐藤 正雄(故人)−−−

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