産業政策監調査研究報告第14号「地産地消が地域経済と二酸化炭素削減に及ぼす効果の試算」
~家計調査、産業連関表、フード・マイレージを用いた分析~
1 分析のねらい
【これまでの地産地消の取り組み】
紫波町では、地産地消を推進するために令和3年3月に紫波町地産地消条例を制定しています。
この中で町の役割として1.消費者、事業者及び生産者と連携して、地産地消の推進に関する施策を実施することと、2.地産地消の推進に向け、消費者、事業者及び生産者と連携し、地産地消に関する理解を深めるため、啓発活動を行い、情報の共有化を図るとともに、交流活動の促進に関する施策を実施するものとされています。
これまで「地産地消」は、食育や地域農業の活性化に有効な手段として、主に運動論や理念として取り組まれてきました。
このため、地産地消を推進することにより期待される効果について統計数字を用いて定量的に分析した例はほとんどありませんでした。
本報告書では、地産地消を拡大することにより期待される農業生産、岩手県経済、二酸化炭素の削減に及ぼす効果に着目して定量的に分析し、地産地消の拡大による効果の可視化を試みました。
具体的には、以下の項目について地産地消を拡大した場合の効果を試算しています。
1.地産地消が農業生産に及ぼす効果
2.地産地消が岩手県経済に及ぼす効果
3.地産地消が二酸化炭素削減に及ぼす効果
また、穀物と果物について国産と輸入の購入金額を試算し、輸入品の購入金額を削減し国産に振り替えることにより拡大可能な購入金額を試算しています。
2 分析結果の要約
【地産地消が農業生産に及ぼす効果】
分析した結果、県内で消費されている農畜産物の購入金額は897億円と多額に上り、この農畜産物購入金額の10%分で新たに県産農畜産物を購入することにより、県産農畜産物の仕入金額は44.8億円、農業所得は、16.6億円増加し、認定農業者数は395人増加すると試算され、地産地消は農業生産振興に大きな効果が期待されます。
なおこの試算は、流通マージン率50%、農業所得率37%を前提にしたもので、あくまでも試算の域を出ませんが、地産地消を推進して地域内で生産された地産農畜産物を地域内の消費者に購入していただくことにより、地域内の農業所得が増加し、地域内の認定農業者の確保につながることを具体的な数字で可視化したものです。
【地産地消が岩手県の経済に及ぼす効果】
岩手県の産業連関表では、食料品部門の生産額が4,409億円と大きく、農業と畜産部門から1,541億円仕入れており、生産波及効果も1.58倍と最も大きい部門となっています。
このことから、地産地消の拡大あたっては、地域内の消費者、飲食料品部門と連携して進めていくことが重要であると考えられます。
産業連関表を用いて地産地消を拡大し、飲食料品部門で90億円の県産農畜産物の需要が増加した場合、岩手県全体の経済波及効果は総効果で152億円、誘発される就業者数1,274人と試算され、地産地消の拡大は、岩手県経済にとって大きな経済波及効果が期待できます。
【地産地消が二酸化炭素削減に及ぼす効果】
地産地消の拡大は、フード・マイレージの削減につながります。小麦粉を紫波町で自給すれば、米国から小麦を輸入する場合に比較し、輸送により排出される二酸化炭素の量が526分の1に削減されると試算され、地産地消の拡大は、二酸化炭素の削減効果があると期待されます。
【品目別地産地消の経済計算】
果物の国産・輸入別の購入金額は、紫波町では国産果物3億3,188万円、輸入果物8,131万円、岩手県では国産果物136億円、輸入果物33.5億円と試算されます。輸入果物を国産果物に置き換えることにより国産果物の購入金額を増やすことが可能と考えられます。
国産のりんごとぶどうの購入金額がバナナの購入金額を上回っている8月~2月にバナナの購入金額を半分に減額し、りんごとぶどうの購入に充てた場合に増加する購入金額は、紫波町ではりんご1,240万円、ぶどう537万円、岩手県ではリンゴ5.1億円、ぶどう2.2億円になると試算されました。
今後、農業者と消費者に地産地消に取り組んでいただくためには、地産地消が地域経済の活性化と地域農業生産の振興に有効な取り組みであり、地域の農業生産が拡大されることにより農業の担い手が確保され、将来にわたった地域の食料自給率の向上につながること、また地産地消は二酸化炭素の排出量が削減され地球温暖化の防止にも貢献することを理解していただくことが重要と考えられます。
調査・研究
第35号「紫波町水分地区の担い手及び農地の見通しと今後の対応方向」
第34号「紫波町における地域・年齢別基幹的農業従事者割合」
産業政策監調査研究報告分類別一覧表について
産業政策監調査研究報告第33号「地域農業持続のためのグランドデザイン」
第32号「地域計画作成に向け想定する水田作経営の担い手の姿と確保方策」
産業政策監調査研究報告第31号「紫波町の地域計画作成に向けた農業経営の意向調査の分析Ⅱ」
産業政策監調査研究報告第30号「紫波町の地域計画作成に向けた農業経営の意向調査の分析Ⅰ」
産業政策監調査研究報告第29号「地域計画作成に向けた集落営農実態調査の分析」
産業政策監調査研究報告第28号「2020年農林業センサス紫波町農業集落別データブック」
産業政策監調査研究報告第27号「地域計画作成に向けた認定農業者の分析と農地の需給見通し」
産業政策監調査研究報告第26号「地域計画作成に向けた農林業センサスの分析」
産業政策監調査研究報告第25号「産業政策監におけるEBPMとアジャイル型プロジェクト」
産業政策監調査研究報告第24号「紫波町の農業の担い手確保に向けた統計分析と対応方向」
産業政策監の農村政策フェロー小川勝弘が東北農業経済学会学会賞を受賞しました。
産業政策監調査研究報告第23号「地域計画作成に向けた農地の需給見通しとリーディングプロジェクト」
産業政策監調査研究報告第22号「紫波町の作物別経営体数と作付面積の推移と見通し」
産業政策監調査研究報告第21号「紫波町の認定農業者の特徴と農地の需給見通し」
産業政策監調査研究報告第20号「子実用トウモロコシ産地化の課題と対応方向」
産業政策監調査研究報告第12号「紫波町における子実用トウモロコシ産地化の取組状況」(令和3年度実績)
産業政策監調査研究報告第13号「農村政策フェロー3年間の活動実績」
産業政策監調査研究報告第14号「地産地消が地域経済と二酸化炭素削減に及ぼす効果の試算」
産業政策監調査研究報告第15号「紫波町の集落営農の特徴と今後の方向」
産業政策監調査研究報告第16号「畑に見いだす新たな価値」
産業政策監調査研究報告第17号「地域の農地を一元的に管理する管理主体の創設」
産業政策監調査研究報告第18号「財務諸表から見た紫波町の集落営農の展開方向」
産業政策監調査研究報告第19号「紫波町の新たな農業の取組みと農村政策フェローのジャンル確立」
産業政策監調査研究報告第1号「紫波町認定農業者の定量的分析と農地の需要見通し」
産業政策監調査研究報告第2号「紫波町の農業経営体数の予測と農地の需給見通し」
産業政策監調査研究報告第3号「農業体験農園シンポジウムの開催状況」
産業政策監調査研究報告第4号「古館農業体験農園の取組状況と盛岡市市民の農業体験農園の意向」
産業政策監調査研究報告第5号「紫波町の農業生産構造動向分析」
産業政策監調査研究報告第6号「農村政策フェローの活動状況」
産業政策監調査研究報告第7号「紫波町における子実用トウモロコシ産地化の取組状況」
産業政策監調査研究報告第8号「紫波町における旧町村別農業生産構造の特徴と人・農地プランの実践」
産業政策監調査研究報告第9号「紫波町の旧町村別農業生産構造の動向分析と今後の農業振興策の考え方」
産業政策監調査研究報告第10号「畑からはじまる心地よい暮らしの集い開催状況」~畑を利用して活動している各団体の活動内容~
産業政策監調査研究報告第11号「紫波町における人・農地プランの取組状況」